「ぜひうちで働いていただきたいです」と伝えて、本人も乗り気だった。それなのに数日後、「家族に相談したら反対されまして」と辞退の連絡が入る。警備の採用をしていれば、一度は経験する場面だと思います。
多くの会社は、これを本人の気が変わっただけの断り文句だと受け取ります。もちろん、そういう場合もあります。ただ警備の仕事には、家族が本気で心配するだけの材料がそろっています。夜勤がある。屋外に立つ。車の通る場所にいる。そして応募者の年齢が高い。反対は、実際に起きています。この記事では、家族の反対の中身を3つに分けて整理し、面接の場で先に手を打つやり方を順番に説明します。
- 採用の可否が決まる場所は面接室ではなく、応募者の家の食卓であることがある
- 家族の反対は「危なくないか」「体がもつか」「暮らしが安定するか」の3つに分けられる
- 口で説明したことは家族に届かない。持ち帰れる紙1枚と、会社の電話番号を渡す
- 反対を押し切って入社した人は、あとで辞めやすい。急ぐより、家族に納得してもらうほうが早い
「家族に反対されて」は、ただの断り文句ではない
採用の面接では、目の前に応募者が1人だけ座っています。しかしその人の後ろには、たいてい家族がいます。配偶者、子ども、親。応募者は面接が終わると家に帰り、その日の夕食の席で「今日こういう会社に行ってきた」と話します。そして、そこで話が止まることがあります。
警備業でこれが起きやすいのには、はっきりした理由があります。応募してくる人の年齢層が高いことです。警備員の年齢構成は、警察庁が毎年公表している「警備業の概況」で誰でも確認できます。60代・70代の方が現場を支えているのが、この仕事の実際の姿です。そして60代・70代の応募者にとって、家族は「そろそろ無理しないで」と言う側の人たちです。本人がいくらやる気でも、家族は別のことを考えています。
ここで大事なのは、家族は反対しているのではなく、心配しているだけだということです。反対の中身を聞くと、多くは「この人が怪我をしないか」「夜勤で体を壊さないか」という話に行き着きます。悪意はどこにもなく、ただ心配を解く材料が、家庭の食卓に1つも置かれていないのです。
会社の側からは、この過程はまったく見えません。見えるのは「決まりかけていた人が急に辞退した」という結果だけです。私たちの親会社である警備会社でも、対策をする前は、面接の約束をした人の約4割が当日に現れませんでした。来なかった理由は本人に聞けないので分かりません。そこを推測で埋めるつもりはありません。ただ確実に言えるのは、会社が何もしていない間に、会社の見ていない場所で判断が進んでいるということです。だから、本人を口説くだけでは足りません。その場にいない家族に届く説明が要ります。
家族が反対している3つの中身
「家族が反対している」とひとまとめにすると打つ手がありません。実際に聞いてみると、心配の中身は次の3つのどれかに収まります。
車の横に立つ仕事、というひとつの絵しか浮かんでいない
夜勤・立ちっぱなし・暑さ寒さ。年齢を思うと止めたくなる
日給いくら、何日入れるのかが分からず、家計の絵が描けない
心配1:危なくないのか
家族の頭に浮かんでいるのは、たいてい1枚の絵です。交通量の多い道路脇に、赤い誘導灯を持って立っている人の絵。警備の仕事といえばそれしか知らないからです。実際には、施設の受付や巡回、駐車場、イベント会場、工事現場の出入口の管理など、現場によって内容も危険度もまるで違います。この幅が伝わっていないだけで、家族は最悪の1枚を見続けることになります。
ここでやってはいけないのは「危なくありませんから大丈夫です」と言い切ることです。屋外で車の通る場所に立つ以上、危険がゼロだとは言えません。言い切ると、あとでヒヤリとした出来事があったときに会社の言葉すべてが信用されなくなります。代わりに、危険を減らすために会社が実際にやっていることを具体的に言います。配置する人数、装備、無線の持たせ方、危ない現場には新人を入れないという運用。事実を並べるほうが、言い切りよりもずっと安心してもらえます。
心配2:体がもつのか
夜勤、立ち仕事、真夏と真冬の屋外。家族はこれを、本人の年齢と持病に重ねて考えます。実は本人も同じことを気にしていますが、面接では言い出しにくいものです。体力に自信がないと言えば落とされる、と思うからです。
だから会社の側から先に言ってしまうのが早いです。休憩の取り方、暑さ寒さの対策、無理なときにシフトを代われる仕組み、週に何日から始められるか。「まずは週2日から始めて、慣れてきたら増やす方もいます」と伝えるだけで、家族の心配はかなり小さくなります。シニアの方に長く働いてもらうための現場側の工夫は、60代・70代のシニア警備員に長く働いてもらう工夫にまとめています。
心配3:暮らしが安定するのか
「日給いくら」だけを聞いても、家族には家計の絵が描けません。知りたいのは月にいくらになるのかです。日給、入れる日数の目安、支払日、交通費、社会保険の扱い。ここが曖昧なままだと、家族には「不安定な仕事」としか見えません。逆にここが具体的に書いてあると、話は一気に前に進みます。年金を受け取りながら働く方の場合は、収入と年金の関係を気にする家族も多いので、詳しくは年金事務所に確認していただく案内を添えておくと親切です。
面接の場で「持ち帰れる1枚」を渡す
ここまでの説明を、面接で口頭でしたとします。その内容は、家族にどこまで届くでしょうか。ほとんど届きません。応募者は録音しているわけではありませんし、専門用語も混じります。伝言ゲームで話は必ず薄くなり、家族が聞くのは「よくわからないが夜勤があるらしい」という結論だけになります。
対策は単純で、紙を1枚渡すことです。面接の最後に「ご家族にも見ていただけるように、まとめてあります」と言って手渡します。かかる手間はコピー1枚ぶんです。
現場の名前と場所。仕事の内容を1〜2行で
時間帯、週の日数、休憩の取り方
日給、月の目安、支払日、交通費
装備、配置人数、研修、連絡の取り方
研修の日程、初出勤日、誰がついてくれるか
家族が直接聞ける窓口。これが一番効く
この6つのうち、効き目が大きいのは最後の会社の電話番号と担当者名です。求人票にも会社の番号は載っていますが、「ご家族から直接お電話いただいても構いません。私が出ます」と面接官が名前を書いて渡すのとでは、受け取り方が違います。名前も顔も知らない会社に大切な人を送り出すのは不安なものです。窓口が1人はっきりしているだけで、その不安はかなり小さくなります。
紙は立派でなくて構いません。ただしA4で1枚に収めてください。何ページもある会社案内は読まれませんが、1枚なら食卓に置かれます。字は大きめにし、日給と時間帯と電話番号は特に大きく書きます。読み手は中高年のご家族です。むしろ現場名や初出勤日が手書きで書き込まれているほうが、その人のために用意された紙に見えます。
家族に通じる言葉に言い換える
紙を作るときに気をつけたいのが言葉です。業界の中で当たり前に使っている言葉は、家族にはまったく通じません。通じない言葉が並んだ紙は、読まれずに終わります。
たとえば、こう言い換えます。
- 「2号警備」→「工事現場や駐車場で、車と歩行者の通り道を案内する仕事」
- 「1号警備」→「建物の中の受付や見回り。座っている時間が長い現場もあります」
- 「新任教育」→「働き始める前に受ける、法律で決まった研修(給与が出ます)」
- 「シフト制」→「働く日をあらかじめ相談して決めます。週2日から始められます」
- 「直行直帰」→「会社に寄らず、自宅から現場に行って、終わったら帰ります」
研修に給与が出ることは、必ず書いてください。家族は「働き始める前にタダ働きさせられるのでは」と心配していることがあります。書いてあれば、その心配は1行で消えます。
もうひとつ、書いてはいけないものがあります。事実でないことです。「夜勤はありません」と書いて、入社後に夜勤を頼めば、その時点で家族の信用は完全に失われます。本人ではなく家族の信用を失うほうが、あとで重く効きます。書けないことは書かず、決まっていないことは「決まっていません」と書くのが、結局いちばん強いやり方です。
持ち帰る時間を、こちらから設計する
警備の採用では、面接のその場で採用の意思を伝えるのが基本です。理由は面接に来た人を逃さない「その場で内定」の作法に書いたとおりで、応募者は他社にも応募しており、「後日ご連絡します」の数日で決まってしまうからです。
家族への説明は、これと矛盾しません。会社の意思はその場で伝える。持ち帰ってもらうのは家族への説明であって、返事の先延ばしではないからです。伝え方はこうなります。「ぜひ一緒に働いていただきたいです。ご家族にもご覧いただける資料をお渡しします。ご心配な点があれば、私に直接お電話ください。お返事は明後日の夕方までにいただければ大丈夫です」。
ここで期限を切ることが大切です。期限のない持ち帰りは、そのまま自然消滅します。逆に「明後日の夕方まで」と決めておけば、応募者は家で話をする理由ができます。そして期限の日に会社から一度連絡を入れます。催促ではなく、「ご家族にご説明いただけましたか。分かりにくいところがあれば私からお話しします」という一言です。
それでも心配が消えないときの一手が、現場を見てもらうことです。「ご家族と一緒に、実際の現場をご覧になりませんか」と誘います。想像していた危険な道路脇ではなく、静かな駐車場の入口や施設の受付だったと分かるだけで、話は終わります。人は自分の目で見たものを信じます。紙よりも、電話よりも、現場が強いです。ただし、無理に誘わないこと。断られたらそれ以上は押さないのが礼儀です。
反対されたまま入社した人は、あとで辞める
ここまで読んで、「家族の説得に手間をかけるより、押し切って入社させたほうが早い」と思われたかもしれません。実際には逆になります。
家庭で反対されたまま働き始めた人は、辞める理由をいつでも家に持っています。真夏に汗だくで帰った日、雨で冷えた日、現場で嫌な思いをした日。そのたびに「だから言ったでしょう」と言われます。仕事を続ける力は現場の中だけでは生まれません。家で「今日もお疲れさま」と言ってもらえるかどうかが、続くかどうかを分けます。
実際、辞めるタイミングとして多いのは、内定から初出勤までの空白期間と、入社後の1か月です。どちらも、家庭での会話が効いてくる時期です。この時期に何が起きるかは、警備業の新任教育と初出勤までに人が消える理由と採用した警備員が1か月で辞める会社の共通点で詳しく書きました。
採用にかけた費用の面から見ても同じです。反対を押し切って採った1人が1か月で辞めれば、その人にかけた広告費も、面接の時間も、研修の費用もすべて消えます。家族に納得してもらうために使う時間は、遠回りに見えて、いちばん短い道です。
よくある質問
Q. 「家族に反対されました」と言われたら、そこで引き下がるべきですか?
一度は聞いてみてください。「差し支えなければ、どんな点をご心配されていましたか」と尋ねるだけで構いません。中身が分かれば、答えられる心配なのか、答えようのない心配なのかが分かります。危険や体調の心配なら、資料を送る、現場を見てもらう、といった手が残っています。それでも変わらなければ、そこで引きます。追いすぎると会社の印象が悪くなり、その方の周りの人にも伝わります。
Q. 本人を通さず、家族に直接連絡してもいいですか?
会社から家族へ勝手に連絡するのはやめてください。応募者の個人的な事情に会社が踏み込むことになりますし、本人が家族に話していない段階だった場合は関係が壊れます。正しい順番は、本人に「ご家族が私に電話してくださって構いません」と伝えて、家族の側から連絡してもらう形です。窓口を開けておくことと、こちらから押しかけることは違います。
Q. 面接に家族が同席したいと言われたら、断るべきですか?
断る理由はありません。むしろ歓迎してよい場面です。同席してもらえれば、伝言ゲームが起きずに説明が直接届きます。ただし、評価するのはあくまで本人です。受け答えを家族が全部代わりにしてしまうようなら、「ご本人のお考えも伺わせてください」と一言添えて、本人に戻します。
Q. 若い応募者でも家族の反対はありますか?
あります。20代なら親、30代以降なら配偶者です。若い方の場合は「警備はきちんとした仕事なのか」「ずっと続けられる仕事なのか」という問いになりやすいです。この場合は、検定資格や指導教育責任者といった国家資格でキャリアが積めること、資格を取ると手当がつくことを具体的に示すと話が変わります。資格を採用の武器にする方法は資格手当と受験費用の会社負担で応募を増やす方法にまとめてあります。
Q. うちは小さい会社なので、そんな資料を作る余裕がありません。
1枚作れば、その後はずっと使い回せます。変わるのは現場名と初出勤日くらいです。最初の1枚に半日かければ、あとは面接のたびに数字を書き換えるだけになります。むしろ小さい会社ほど、社長本人の名前と携帯番号が書いてある紙は強く効きます。大きい会社にはできないやり方です。
まとめ
採用の可否が決まる場所は、面接室とはかぎりません。応募者の家の食卓で決まっていることがあります。そこに会社の説明が1枚も置かれていなければ、家族は自分の想像だけで判断するしかありません。想像は、たいてい実際より悪いほうに振れます。
やることは3つだけです。心配の中身を3つに分けて考える。持ち帰れる紙を1枚渡し、そこに会社の電話番号と担当者名を書く。持ち帰る期限を決めて、その日に一度連絡する。どれもお金はかかりません。かかるのは、最初の1枚を作る半日だけです。
採用は「集める→落とさない→決める→迎える」の4つの工程でできています。家族の反対は、そのうち決めるの最後で人が消える原因であり、同時に迎えるの入口でつまずく原因でもあります。ここを押さえておくと、せっかく面接まで来てくれた人を、最後の一歩で手放さずに済みます。
