お金と手間をかけて採用した警備員が、1か月もたずに辞めていく。これほど採用担当の心が折れる出来事はありません。求人広告の費用、面接に使った時間、そろえた制服、法定の新任教育。そのすべてが、退職の連絡と一緒に消えていきます。
「最近の人は根性がない」と言いたくなる気持ちは分かります。しかし、早期離職の多い会社には、本人の根性とはあまり関係のない、はっきりした共通点があります。裏を返せば、その共通点をひとつずつつぶしていけば、同じ採用でも人は残るということです。耳の痛い話もありますが、直せるところから直していきましょう。
この記事では、1か月で辞められてしまう会社の3つの共通点と、辞める前に新人が出しているサイン、明日からできる定着の手順まで、順番に解説します。
- 1か月以内の退職は、本人の根性より「会社側の受け入れ方」に原因があることが多い
- 共通点は「初日に放置」「聞いていた話と違う」「話す相手がいない」の3つ
- 最初の1か月に3回の声かけを決まりごとにするだけで、定着は大きく変わる
- 辞める前には必ずサインが出る。気づける仕組みを先に作っておく
なぜ「1か月」で人は辞めるのか
早期離職の話をすると、「最初の1か月」に退職が集中することに気づきます。偶然ではありません。最初の1か月には、新人にとっての節目が3つも重なっているからです。
1つ目は「初日」。会社の第一印象がすべて決まる日です。2つ目は「現場に慣れ始める時期」。仕事の全体像が見えてきて、「この仕事を続けられるか」を自分に問い始めます。3つ目は「最初の給料日」。求人票の金額と手取りの差を、はじめて現実の数字として受け取る日です。この3つの節目のどこかでつまずくと、人は静かに辞める準備を始めます。
そして、1か月での退職は会社にとって出費の面でも痛手です。私たちの親会社の警備会社では、かつて求人広告に頼っていたころ、採用単価が約30万円かかっていました。仮にこの水準でお金をかけて採用した人が1か月で辞めれば、約30万円と教育にかけた時間が、そのまま消える計算になります。採用単価の考え方は警備員の採用単価の計算と下げ方で詳しく解説していますが、単価をいくら下げても、辞められては意味がありません。定着まで含めてはじめて「採用が成功した」と言えるのです。
共通点1:初日に放置している
新人の初日に、実際に起きていること
初日の現場で、誰からも名前を呼ばれない。持ち場だけ伝えられて、あとは立ちっぱなし。昼休憩も一人で、話しかけてくれる人もいない——。新人がいちばん心細い日に、受け入れる準備がない。これが早期離職のいちばん多い入り口です。初日の孤独は、翌週の退職届です。
受け入れる側に悪気はありません。現場は人手が足りず、隊長も自分の持ち場で手一杯。「新人が来るのは聞いていたが、誰が面倒を見るかは決まっていなかった」。多くの会社で起きているのは、意地悪ではなく、単なる決めごとの不足です。
「受け入れ役」を一人、名前で決める
対策は簡単です。新人の初日より前に、受け入れ役を一人、名前で決めておくこと。「現場のみんなでフォローしよう」では、誰もフォローしません。全員の仕事は、誰の仕事でもなくなるからです。「初日は佐藤隊長が面倒を見る」と名前で決めて、本人にもそう伝えておく。これだけで初日の景色は変わります。
初日に伝える3つのこと
受け入れ役が初日に伝えることは、難しいものではありません。①今日の流れ(何時に何をするか)②困ったら誰に聞くか(受け入れ役の名前と連絡先)③明日の予定(次にいつ、どこに行くか)。この3つだけです。とくに③が抜けがちです。初日の終わりに「明日も同じ現場です。今日と同じ時間にお願いします」と一言あるだけで、新人は安心して帰れます。逆にこれがないと、家に帰ってから不安だけが膨らみます。
共通点2:聞いていた話と違う
「盛った求人」は、入社後に請求書になって返ってくる
求人票には「日勤メイン」と書いたのに、実際は夜勤が続く。「駅チカの現場」と聞いていたのに、車がないと通えない現場に配属される。面接では「残業ほぼなし」と言ったのに、初週から延長が当たり前——。応募を増やしたい一心で盛った話は、必ず入社後に請求書になって返ってきます。しかも利子つきです。条件が悪いこと自体より、「だまされた」という気持ちが人を辞めさせるからです。
求人票は、会社を良く見せる場ではありません。入社後のがっかりを無くす場です。書き方の基本は警備員の求人票の書き方で解説しています。
悪い情報こそ、先に伝える
面接では、良い話だけでなく、あえて悪い情報も先に伝えておくことをおすすめします。「夏の現場は暑いです」「月に数回は夜勤をお願いする可能性があります」「最初の現場は駅から歩きます」。先に聞いていれば納得できることも、入ってから知れば裏切りに感じます。悪い情報を先に伝えると応募が減りそうで怖い、という声もありますが、実際に減るのは「どうせすぐ辞めていた応募」です。入り口で正直に伝えることは、定着への最初の投資だと考えてください。
共通点3:辞めたくなったとき、話す相手がいない
接点が「給与明細だけ」になっていないか
現場に配属されたあと、会社と新人の接点が給与明細だけになっていませんか。警備の仕事は現場に出れば一人前扱いで、本社の人間と顔を合わせる機会がほとんどありません。不満や不安は、小さいうちに口に出せれば解消できます。しかし、聞いてくれる相手がいなければ溜まる一方で、溜まりきったものは、ある日突然、退職の連絡になって届きます。
「辞めます」と言われてから慌てて面談しても、たいてい手遅れです。本人の中では、もう何週間も前に結論が出ているからです。だから、問題が起きてから話すのではなく、問題がなくても話す機会を、先に決まりごとにしておく必要があります。
「今日どうでしたか」の電話かSMS
困りごとを聞く。現場の相性を確認
続けられそうかを面談で確認
3回の声かけ、それぞれのコツ
初日の夜は、ねぎらいだけで十分です。「今日はお疲れさまでした。どうでしたか」。電話が苦手な人も多いので、SMSやLINEの短い文面でも構いません。連絡手段の使い分けは警備員の採用でLINEを使う方法も参考にしてください。
1週間後は、困りごとを具体的に聞きます。「仕事はどうですか」と大きく聞くと「大丈夫です」で終わるので、「現場までの通勤はきつくないですか」「隊長とはやりとりできていますか」と、答えやすい聞き方で区切って聞くのがコツです。現場の相性が悪そうなら、この段階で配置を見直します。1か月後では遅いのです。
1か月後は、顔を合わせての面談をおすすめします。「ここまで続けてくれてありがとうございます」から始めて、この先も続けられそうか、直してほしいことはないかを聞きます。ここで出た小さな要望に応えられると、「この会社は話を聞いてくれる」という信頼に変わります。
辞める前に出るサインと、続く会社の習慣
新人が出す4つのサイン
1か月で辞める人も、何の前ぶれもなく消えるわけではありません。多くの場合、サインを出しています。①連絡への返事が短く、遅くなる ②休憩中に一人でいることが増える ③遅刻や当日欠勤がぽつぽつ出はじめる ④シフトの希望日数が減る。この4つのどれかが見えたら、黄色信号です。受け入れ役や隊長が気づいたら、その日のうちに一本、声をかけてください。「最近どうですか」の一言が間に合ううちに届くかどうかが、分かれ目です。
辞める会社と続く会社は、ここが違う
・初日の面倒を見る人が決まっていない
・求人票と実際の条件がずれている
・配属後の接点が給与明細だけ
・「辞めます」と言われてから面談する
・受け入れ役を名前で決めている
・悪い情報も入社前に伝えている
・3回の声かけが決まりごとになっている
・サインの段階で声をかけている
見比べると分かるとおり、続く会社がやっていることに、お金のかかるものはひとつもありません。特別な制度も、立派な福利厚生もいりません。必要なのは「決めごと」と「一言の声かけ」だけです。なお、入社前の段階、つまり内定から新任教育までの間に人が消えてしまう場合は、原因も対策も別にあります。新任教育までに人が消える理由をあわせてお読みください。
よくある質問
Q. 受け入れ役は、誰に頼むのがいいですか?
配属先の現場で、いちばん新人に近い立場の人がおすすめです。多くの場合は現場の隊長ですが、隊長が忙しい現場なら、面倒見のよい先輩隊員でも構いません。大事なのは役職ではなく、「初日に名前で決まっていること」と「本人がそれを知っていること」です。あわせて、受け入れ役には「新人の様子を週1回、会社に一言報告する」ところまでお願いすると、本社からも様子が見えるようになります。
Q. 声かけは電話・SMS・LINEのどれがいいですか?
初日の夜のねぎらいは、SMSやLINEの短い文面で十分です。電話は出られないと折り返しの負担になりますし、若い人ほど電話を重く感じます。一方で、1週間後の困りごと聞きと1か月後の面談は、声や顔が見える方法をおすすめします。文字では「大丈夫です」としか返ってこない相談も、声なら間が伝わるからです。
Q. 「辞めたい」と言われたら、引き止めるべきですか?
強い引き止めはおすすめしません。条件のつり上げで引き止めても、辞める時期が数か月延びるだけのことが多いからです。それよりも、理由を丁寧に聞いてください。現場の相性や勤務時間帯が理由なら、配置換えで解決できることがあります。そして理由が会社側にあるなら、それは次の新人のために直すべき点を教えてもらえた、貴重な機会です。
Q. 1か月で辞めた人の給料は払わないといけませんか?
原則として、働いてもらった分の賃金は、在籍期間の長さにかかわらず支払う必要があるとされています。「1か月未満の退職は研修費を差し引く」といった取り決めも、法律上問題になり得るとされていますので、腹立たしい気持ちは分かりますが、精算はきちんと行い、個別の判断に迷う場合は社会保険労務士などの専門家に確認してください。
Q. 定着が悪いのは、現場の隊長のせいではないのですか?
隊長個人のせいにしても、何も良くなりません。受け入れ役が決まっていない、声かけの決まりごとがない、という状態で新人を迎えれば、誰が隊長でも同じことが起きます。まず会社として仕組みを決め、そのうえで隊長に「受け入れ役」という役割と、可能なら手当をつけてお願いする。責める前に、任せ方を整えるのが先です。
Q. まず何から手をつければいいですか?
次に入る新人の「受け入れ役を名前で決める」ことからです。今日決められて、お金がかからず、効果がいちばん早く出ます。そのうえで、3回の声かけを会社の決まりごとにする。求人票の見直しは、次の募集のタイミングで行えば大丈夫です。
まとめ:採用の成功は「1か月後に居ること」
1か月で辞められる会社の共通点は、①初日に放置している ②聞いていた話と違う ③辞めたくなったとき話す相手がいない、の3つでした。どれも本人の根性の問題ではなく、会社側の決めごとで防げるものです。
打ち手も3つです。①初日の受け入れ役を名前で決める ②求人票と面接で盛らない。悪い情報こそ先に伝える ③初日の夜・1週間後・1か月後の3回の声かけを決まりごとにする。いずれもお金はかかりません。かかるのは、決める手間と一言の勇気だけです。
採用単価をいくら下げても、1か月で辞められては元も子もありません。定着まで含めて「採用」です。まずは次の新人の受け入れ役を、今日、名前で決めるところから始めてください。
