「女性の隊員も増やしたい」という警備会社は年々増えています。施設や商業施設の現場では女性隊員への需要も高く、採用の幅を広げる意味でも大きなテーマです。ただし、求人票に「女性活躍中」と書く前に、やるべきことがあります。現場の受け入れ準備です。
準備が整っていないまま採用を始めると、せっかく入ってくれた1人目が「聞いていた話と違う」と辞めてしまい、かえって遠回りになります。逆に、受け入れの順番さえ間違えなければ、女性の採用は会社の採用力そのものを底上げしてくれます。
この記事では、警備会社が女性隊員の採用を増やすために、現場で何をどの順番で整えればよいのかを、設備・働き方・求人票・定着の4つの段階に分けて解説します。
- 求人を出す前に、トイレ・更衣室、制服のサイズ、配置の3点を現場ごとに確認する
- 求人票には「女性が輝ける」ではなく「女性用更衣室あり」などの事実を書く
- 募集で性別を限定することは原則できないとされているため、事実を書く方法が安全で応募にもつながる
- 最初の1人の定着が、2人目以降の採用につながるいちばんの採用施策になる
なぜいま、女性警備員の採用なのか
警備の現場では、女性隊員にしか任せにくい業務が増えています。商業施設やイベント会場での手荷物確認、女性用トイレを含む施設内の巡回、病院や受付での案内対応。相手が女性のお客様である場面では、同性の隊員が対応したほうが安心してもらえることが多いのです。発注元から「女性の隊員を配置してほしい」と指名される契約も珍しくありません。女性隊員がいる会社といない会社では、受けられる仕事の幅が変わってきます。
もうひとつの理由は、採用の入り口を広げることです。働き手のおよそ半分は女性です。男性だけを想定した採用は、言ってみれば店の入り口を半分閉めて営業しているようなものです。人手不足が続く警備業界で、応募してくれる可能性のある人を最初から半分あきらめてしまうのは、もったいない話です。
ただし、勢いだけで募集を始めるのは危険です。受け入れの準備ができていない現場に配属すると、本人がつらい思いをするだけでなく、「うちは女性には無理だった」という誤った結論が社内に残ってしまいます。設備が原因で辞めたのに、「やっぱり続かない仕事なんだ」と人のせいにされてしまうと、次の挑戦もしにくくなります。順番は、募集より先に準備です。
最初に確認する3つの設備
女性用があるか。仮設現場なら近隣で使える場所を確保できるか
女性向けサイズの在庫。ぶかぶかの制服は初日の士気を下げる
夜間に1人きりにしない。無線や連絡手段を確実に
順に見ていきます。まずトイレと更衣室です。常駐の施設警備なら、施設側に女性用の設備を使わせてもらえるかを先に確認します。工事現場などの仮設の現場では、近くの施設と取り決めができるか、仮設トイレに女性用の区分を用意できるかを見ます。「現地に行けば何とかなるだろう」は通用しません。ここが曖昧なままだと、初日でつまずきます。
次に制服のサイズです。男性用の小さいサイズを流用すると、肩幅も袖丈も合わず、ぶかぶかの制服で現場に立つことになります。制服は警備員の顔です。体に合わない制服は本人の士気を下げるだけでなく、現場の見た目の印象も損ないます。女性向けサイズの在庫を確認し、なければ入社日までに届く段取りを作っておきましょう。
最後に配置です。夜間や人けのない場所で1人きりにしない。無線や携帯電話など、すぐに連絡できる手段を必ず持たせる。これは女性に限らず大事なことですが、応募を迷っている女性がいちばん不安に感じる点でもあります。
この3点が整っている現場のリストを作っておくと、「女性の応募が来たらどの現場に案内できるか」が即答できるようになります。応募が来てから慌てて探すのでは遅いのです。逆に、リストさえあれば、面接の場で「あなたに案内できるのはこの現場です」と具体的に話せます。この即答が、応募者の安心と入社の決め手になります。
設備の次に整える「働き方」と「相談先」
シフトの組み方に選択肢を作る
家庭の事情で「日勤だけがいい」「この曜日は早く上がりたい」という希望を持つ人は少なくありません。すべてに応える必要はありませんが、「日勤のみの現場もあります」「シフトは前の月に相談できます」と言える体制があるだけで、応募のハードルは大きく下がります。逆に、夜勤なしの働き方が用意できないなら、その事実を求人票に正直に書くべきです。入ってから分かる食い違いが、いちばん人を辞めさせます。
困りごとを相談できる相手を決めておく
設備や制服のような目に見える準備と違って、見落とされがちなのが相談先です。現場で困ったことがあったとき、誰に言えばいいのか。隊長なのか、営業担当なのか、本社の誰かなのか。あらかじめ「困ったらこの人に電話してください」と1人決めて伝えておくだけで、小さな不満が大きな退職理由に育つ前に拾えます。相談を受ける側も、「設備のこと」「シフトのこと」「人間関係のこと」のどれが来ても、その場で握りつぶさずに会社として対応する。この姿勢が伝われば、それだけで働きやすさは変わります。
受け入れる現場の隊員にも先に伝える
女性隊員が初めて配属される現場では、いまいる隊員への周知も準備のうちです。特別扱いを求める話ではありません。「更衣室はこう分ける」「夜間の配置はこう変わる」という運用の変更点を先に共有しておくだけで、現場の戸惑いはほとんどなくなります。迎える側に心の準備があるかどうかで、1人目の働きやすさは大きく変わります。
求人票には「事実」を書く
準備が整ったら、求人票にはその事実を淡々と書きます。「女性用更衣室あり」「2名以上の配置」「女性隊員在籍」。ふわっとした「女性が輝ける職場」より、こうした具体的な1行の方が、応募する側の不安に届きます。
→「女性用トイレ・更衣室のある現場です」
→「女性隊員が在籍しています。夜間は2名以上で配置します」
→「日勤のみの現場あり。シフトは前の月に相談できます」
なお、募集や採用で性別を限定することは、男女雇用機会均等法により原則できないとされています。「女性限定」と書いて絞り込むのではなく、女性が安心して応募できる事実を並べて書く。この方法なら決まりの面でも安心ですし、実際の応募にもつながります。求人票の書き分けの考え方は警備員の求人票の書き方|シニア・女性・若手で変えるで詳しく解説しています。
事実を書くことが大事な理由は、応募者が複数の会社を見比べているからです。マイナビの転職動向調査2024年版によると、転職した人は平均8.8社に応募し、3.6社の面接を受けています。並べて比べられたとき、「輝ける」という言葉は他社と見分けがつきません。「更衣室あり」「2名配置」という事実の1行は、比べられた瞬間にこそ効くのです。書く内容に迷ったら、「面接で必ず聞かれる質問への答えを、先に求人票に書いておく」と考えると整理しやすくなります。
面接から初日、そして定着へ。「最初の1人」を大事にする
面接では、現場の実情を正直に伝える
面接は会社が人を選ぶ場であると同時に、応募者に現場の実情を正しく伝える場です。トイレや更衣室の状況、配置の人数、夜勤の有無。よいことだけを話して入社してもらっても、実情との差はすぐに知られます。「聞いていた話と違う」は、早く辞めてしまう理由の定番です。
また、結婚や出産の予定など、本人の適性や能力と関係のないことを面接で尋ねるのは、厚生労働省の「公正な採用選考」の考え方でも避けるべきとされています。悪気なく聞いてしまいがちな質問ほど注意が必要です。聞いてよいこと・いけないことの整理は警備員の面接で見ること・聞いてはいけないことにまとめています。
初日は「準備してあった」を見せる日
入社初日、体に合った制服が用意されている。更衣室の場所を最初に案内される。「困ったらこの人に」と連絡先を渡される。ひとつひとつは小さなことですが、本人には「ちゃんと準備して迎えてくれた」と伝わります。この安心感が、最初の1か月を乗り切る土台になります。
1人目の定着が、2人目の採用になる
女性隊員が1人定着すると、その現場は「女性が働けると証明された現場」になります。求人写真に登場してもらえれば説得力は段違いですし、知人の紹介も生まれます。実際に働く人の写真の力については応募が変わる警備の求人写真の撮り方でも触れています。逆に1人目が「聞いていた話と違う」で辞めると、社内の空気も含めて振り出しに戻ります。最初の1人を大事にすることが、いちばんの採用施策です。
よくある質問
Q. 女性用のトイレや更衣室がない現場ばかりです。募集はあきらめるべきですか?
全現場を整える必要はありません。まず、設備の整っている現場が1つでもあるかを探してください。常駐の施設警備や商業施設の現場は、施設側の設備を使える場合が多く、最初の受け入れ先に向いています。「案内できる現場が1つある」状態を作ってから募集を始めれば十分です。
Q. 「女性限定」で募集してもいいのでしょうか?
募集や採用で性別を限定することは、原則できないとされています。「女性限定」「女性歓迎」と絞り込む書き方ではなく、女性用の設備や配置の事実、女性隊員の在籍といった事実を書いて、安心して応募してもらう方法をおすすめします。
Q. 制服はどこまで用意すべきですか?
最低限、体に合うサイズの上下一式を入社日までに用意します。夏用・冬用や防寒具も、季節が来てから慌てないように発注の段取りだけ決めておくと安心です。「制服が合わない」は小さなことに見えて、毎日続くストレスになります。
Q. 夜勤には入れないほうがいいですか?
働く時間帯は本人の希望と現場の条件次第で、一律に決める話ではありません。大事なのは、夜間に1人きりにしない配置と、連絡手段の確保です。その上で、日勤を希望する人には日勤のみの現場を案内できるよう、現場のリストを整えておきましょう。
Q. まわりに女性を採用している警備会社がなく、うまくいくのか不安です。
だからこそ、先に整えた会社に応募が集まります。近隣の同業がどこも受け入れ準備をしていないなら、地域で「女性が働ける警備会社」として選ばれるのは、最初に準備を済ませた1社です。設備の確認とシフトの整理は、お金がほとんどかからない割に、他社との差になりやすい取り組みです。
Q. 準備はしたのに応募が来ません。何を見直すべきですか?
準備した事実が求人票に書かれているかを、まず確認してください。せっかく更衣室を確保しても、求人票に書かなければ応募者には伝わりません。写真に更衣室や女性隊員が写っているか、応募しやすい連絡手段があるかも合わせて見直すと効果的です。
まとめ
女性警備員の採用を増やす順番は、はっきりしています。①トイレ・更衣室、制服、配置の3点を現場ごとに確認する。②シフトの選択肢と相談先を決める。③整えた事実をそのまま求人票に書く。④面接と初日で実情を正直に伝え、最初の1人に定着してもらう。この順番です。
募集を先に始めたくなる気持ちは分かりますが、準備のない募集は、入り口のない店に看板だけ立てるようなものです。まずは自社の現場を見渡して、「女性の応募が来たら案内できる現場」がいくつあるかを数えることから始めてください。急がば回れが、いちばんの近道です。
