いまの警備業の現場を支えているのは、間違いなく60代・70代の隊員です。定年後の仕事として警備を選ぶ方は多く、シニアの方に元気に長く働いてもらえるかどうかは、そのまま会社の稼働力になります。シニアが定着している会社は、現場が安定し、採用に追われる回数も減ります。
一方で、こんな声もよく聞きます。「せっかく採用したのに、体力的にきつくて数か月で辞めてしまった」「本人は続けたい様子だったのに、家族に止められた」。採用の話の続きとして、今回は「長く働いてもらう」ための現場の工夫を、できるだけ具体的に書きます。
先にお伝えしたいのは、どれも大がかりな制度や大きな費用が要るものではない、ということです。明日から始められる小さな気づかいの積み重ねが、シニアの定着を決めます。
- シニアの定着は、採用費を減らすいちばん確実な方法。1人が長く働くほど、採用のやり直しが減る
- 体力の差は本人の「がんばり」ではなく、会社側の「現場の割り当て」で吸収する
- 時給の上乗せより先に、暑さ・寒さ・休憩といった環境を整える方が効くことがある
- 「勤務日数を減らして続ける」という選択肢を、会社の側から出せるようにしておく
シニアの定着が、採用コスト削減のいちばんの近道
採用には、求人広告の費用だけでなく、電話対応・面接・書類・制服の用意・法定教育と、目に見えない手間がたくさんかかります。人が辞めれば、この一式をもう一度やり直すことになります。つまり「1人に長く働いてもらう」ことは、それ自体が採用費の削減なのです。
例えば、広告費と手間を合わせて1人採用するのに10万円かかっている会社があるとします。年に3人が辞めて入れ替われば、それだけで30万円。もし定着の工夫でこれが1人分で済めば、浮いた20万円で休憩所に椅子とエアコンを入れても、お釣りがきます。守りにお金を使う方が、攻め(広告費)を増やすより安くつくことは珍しくありません。
採用にいくらかかっているかを把握していない場合は、まず採用単価の計算と下げ方で自社の数字を出してみてください。定着の価値が、金額として見えるようになります。
体力の差を「現場の割り当て」で吸収する
同じ70歳でも、体力は人によってまったく違います。毎日歩いている方もいれば、腰や膝に不安を抱えている方もいます。大事なのは年齢で一律に決めないことと、本人の体力に合う現場を選んで割り当てることです。
立ち時間の長い現場、夏場の屋外、夜勤——負荷の高い現場は若手や希望者に寄せ、シニアには施設内の監視や受付、座哨のある現場を組み合わせる。割り当ての工夫は、根性論に頼らず「無理をさせない仕組み」を作ることそのものです。
配属の前に、本人へ聞いておきたいこと
配属してから「実はきつかった」と分かるのでは遅いので、面接や配属前の面談で、次のようなことを具体的に聞いておきましょう。立ちっぱなしは何時間くらいまで大丈夫か。階段の上り下りはどうか。夜勤の希望はあるか。暑さと寒さ、どちらが体にこたえるか。持病や通院の予定はあるか。こうして聞いた内容をメモに残し、管制や配置担当が見られるようにしておくと、割り当ての質が上がります。
季節で現場を入れ替える
夏の炎天下の駐車場と、冬の吹きさらしの交差点では、体への負担がまるで違います。同じ人を1年中同じ現場に固定するのではなく、夏は屋内寄り、冬は日中寄りというように、季節で現場を入れ替える発想を持つと、無理が一気に減ります。契約先との調整が必要な場合もありますが、「長く続けてもらうための配置換え」は、隊員本人にもきちんと理由を伝えれば、前向きに受け止めてもらえます。
「暑さ・寒さ・休憩」は最優先の待遇
シニア隊員にとって、時給の50円より、休憩所に椅子とエアコンがあることの方が効くことがあります。夏場の飲み物、冬場のカイロ、日陰の確保、休憩の取りやすさ。こうした気づかいは費用としては小さいのに、「この会社は大事にしてくれる」という実感に直結し、定着と紹介につながります。
具体的には、次のようなものです。夏は、現場に冷たい飲み物を差し入れる。塩あめを常備する。休憩をこまめに取れるよう声をかける。冬は、カイロを配る。防寒着を会社で用意する。休憩できる車や室内を確保する。どれも1人あたり月に数百円から数千円の話です。
「そんな細かいことで変わるのか」と思われるかもしれませんが、変わります。シニアの方は、これまでの勤め先でぞんざいに扱われてきた経験を持っていることが少なくありません。だからこそ、椅子が1脚増えた、冷たいお茶が置いてあった、という小さな事実を、若い人よりずっと重く受け止めてくれます。待遇改善というと時給の話になりがちですが、順番としては環境が先、時給はその次で十分です。
もう1つ大事なのは、「無理をするな」と会社がはっきり言葉にすることです。まじめなシニアの方ほど、体調が悪くても言い出さずに現場に立とうとします。「体調が悪いときは遠慮なく言ってほしい。代わりの手配は会社の仕事だから」と繰り返し伝えておく。この一言が、倒れてから後悔する事態を防ぎます。そしてこうした姿勢は、隊員のご家族の安心にもつながります。家族が「あの会社なら大丈夫」と思ってくれれば、「もう歳なんだから辞めたら」という声で退職に至ることも減ります。
本人の「まだやれる」と会社の「見守り」を両立する
夏と冬の前に体調の変化を聞く。健診の受診を後押しする
「減らしたい」を言い出せる空気を作る。減らして続けてもらう方が得
新人の指導役や現場の顔役。経験に敬意を払う
シニアの方の多くは「まだやれる」という気持ちで働いています。この気持ちは会社にとって宝物ですが、放っておくと無理につながります。だからこそ、本人の意欲を尊重しながら、会社が見守る仕組みを持っておくことが大切です。
健康の声かけは、タイミングを決めておくと続きます。おすすめは、夏の前(6月ごろ)と冬の前(11月ごろ)の年2回です。「今年の夏に向けて、体調で気になることはありませんか」と一言聞くだけでかまいません。あわせて健康診断の受診を後押しし、結果を踏まえて現場の割り当てを見直す。この流れが毎年の習慣になっていれば、体調の変化を突然の退職で知る、ということがなくなります。
いちばん効くのは、「勤務日数を減らして続ける」という道を会社の側から示すことです。週5で無理をして辞めてしまうより、週3で5年続けてもらう方が、本人にも会社にも得です。ところが本人からは「日数を減らしたい」とは言い出しにくいものです。減らしたいと言えば、辞めさせられるのではないかと不安になるからです。「うちは週2でも週3でも歓迎です。減らして長く続けてください」と、会社の方から先に言ってあげてください。
もう1つは、経験に見合った役割を渡すことです。新人の指導役、現場の顔役、朝礼でのひと言。長く働いてきた方は、教えることや頼られることに喜びを感じます。「見張っておく」のではなく「頼りにする」。この姿勢の違いは、確実に伝わります。
「辞めたい」の前に出るサインと、面談の習慣
退職は、ある日突然やってくるように見えて、実はその前に小さなサインが出ています。遅刻や欠勤がぽつぽつ増える。口数が減る。「もう歳だから」が口ぐせになる。休憩中に足や腰をさすっている。こうした変化に気づいたときが、声をかけるタイミングです。
とはいえ、気づきに頼るだけでは漏れが出ます。おすすめは、半年に1回、10分でいいので一人ひとりと話す時間を決めてしまうことです。聞くことは3つだけ。体はきつくないか。現場に困りごとはないか。勤務の日数や時間帯を変えたいか。たった10分でも、「会社が自分を気にかけてくれている」という実感は、時給では買えない定着の力になります。
張り合いを作ることも効きます。例えば交通誘導警備業務2級などの資格取得を会社が後押しし、取れたら手当を付ける。年齢に関係なく「まだ成長できる」と感じられる仕掛けは、シニアにこそ効きます。詳しくは資格手当のつくり方も参考にしてください。
そして、こうして大事にされたシニア隊員は、最強の採用窓口にもなります。「うちの会社、良くしてくれるよ」という同年代への口コミは、どんな求人広告より強い。定着の工夫は、そのまま次の採用につながっていくのです。
よくある質問
Q. 何歳まで働いてもらえるものですか?
年齢で一律に線を引く必要はありません。実際、70代で現役の隊員は珍しくありません。大事なのは年齢そのものではなく、健康状態と本人の希望です。定期的な健康診断の受診を会社が後押しし、体力に合う現場を割り当てられていれば、長く活躍してもらえます。逆に、健康状態の把握をせずに年齢だけで判断すると、働ける人を手放し、無理をしている人を見逃すことになります。
Q. シニアの応募自体を増やしたいのですが、求人票はどう書けばいいですか?
シニアに響く求人票には書き方のコツがあります。「60代・70代活躍中」と実例を示す、体力面の不安に先回りして答える、勤務日数の柔軟さを具体的に書く、などです。詳しくは警備員の求人票の書き方|シニア・女性・若手で変えるにまとめています。
Q. 体力面が心配です。現場で倒れたりしないでしょうか?
心配だからこそ、この記事で書いた仕組みが要ります。配属前に体力の状況を具体的に聞く、負荷の高い現場を割り当てない、夏冬は特に声をかける、「体調が悪いときは言ってほしい」と繰り返し伝える。リスクをゼロにはできませんが、「無理をさせない配置」と「言い出せる空気」の2つで、大きく減らせます。
Q. 「勤務日数を減らしたい」と言われたら、シフトが組めなくなりませんか?
短い目で見ればシフトの穴ですが、長い目で見れば逆です。週5の人が無理をして辞めれば、穴は週5個あきます。週3に減らして続けてもらえば、あく穴は2個で、埋め方も一緒に考えられます。週2〜3日で働ける人を複数人そろえておくと、シフト全体がかえって安定します。「減らして続ける」は、会社にとっても守りの一手です。
Q. 若手とシニアの折り合いが心配です。
役割をはっきり渡すことで、多くはうまくいきます。シニアには新人指導や現場の段取りといった「経験が生きる役割」を、若手には体力の要る持ち場を。お互いが「相手がいるから助かる」と感じる分担になっていれば、年齢の差はむしろ強みになります。管理者が朝礼などで、シニアの経験に敬意を示す一言を添えるのも効果的です。
Q. 採用してもすぐ辞めてしまいます。定着の工夫の前に何を見直すべきですか?
入って1か月以内に辞める場合は、定着の工夫よりも、入り口のずれ(聞いていた話と現場が違う)や初日の受け入れ方に原因があることが多いです。1か月で辞める会社の共通点で入り口の見直しから始めてください。
まとめ
シニアの定着は、採用コスト削減のいちばん確実な方法です。やることは大がかりではありません。体力に合わせた現場の割り当て、暑さ・寒さ・休憩への気づかい、「減らして続ける」を会社から言うこと、半年に1回の10分面談、経験に敬意を払う役割渡し。どれも明日から始められます。
まずは、いちばん長く働いてくれているシニア隊員に、10分だけ話を聞くところから始めてみてください。そこで出てきた言葉が、あなたの会社の定着対策の出発点になります。あわせて、シニアに応募してもらう求人の書き方は警備員の求人票の書き方|シニア・女性・若手で変えるをどうぞ。
