広告費ゼロで、面接に来る確率が高く、入ってからの定着もいい——そんな採用経路が「紹介」です。「うちの隊員が友達を連れてきてくれた」という経験のある警備会社は多いはずです。あれを偶然の出来事で終わらせず、会社の仕組みにするのが紹介制度です。
とはいえ、「紹介手当を出すと言ったのに、誰も連れてこなかった」という声もよく聞きます。紹介制度は、作る順番を間違えると動きません。手当の金額から考え始めると、たいてい失敗します。先に整えるべき土台があるからです。
この記事では、警備会社が紹介制度を作るときの手順を、土台づくり・手当のルール・金額の決め方・誘い方の道具立ての順に説明します。今日の朝礼から始められる小さな一歩まで落とし込みますので、ぜひ最後までお読みください。
- 紹介制度が機能する土台は、いまの隊員の満足度。不満な職場に友達は誘えない
- 手当のルールは「シンプル・二段階・公開」。入社時と3か月後に分けて払う
- 金額は相場ではなく、自社の採用単価から逆算して決めれば損をしない
- 「誘い文句」や送れる求人ページまで会社が用意すると、紹介は目に見えて増える
紹介が「いちばん割のいい採用」と言われる理由
まず、なぜ紹介に力を入れる価値があるのかを整理します。強みは大きく3つあります。
強み①:広告費がかからない
求人広告は、出しても応募が来るとは限りません。それでも掲載料はかかります。紹介は、かかるお金が紹介手当だけです。しかも手当は「入社した」「続いた」という結果に対して払うお金です。空振りに払うお金がない、という点で、広告とはお金の性質がまるで違います。
強み②:面接に来てくれる
私たちの親会社の警備会社では、求人広告経由の応募だと、面接の約束をした人の約4割が当日に来ないという実測がありました。紹介は、この「来ない問題」に強い経路です。間に知り合いの顔があるからです。「あいつの紹介で行くと言った手前、すっぽかせない」という気持ちが、自然とドタキャンを減らします。紹介は、面接ドタキャン対策を最初から半分済ませたような経路なのです。
強み③:入ってからの定着がいい
紹介で来る人は、入る前に仕事の実態を聞いています。夜勤のつらさも、立ちっぱなしの現場も、休憩の取り方も、友達から生の声で聞いたうえで来ます。だから「思っていたのと違った」という理由の早期退職が起きにくいのです。さらに、入社後も紹介してくれた先輩がそばにいます。困ったときに聞ける相手が最初からいることは、新人にとって想像以上に心強いものです。
弱点も正直に知っておく
いいことずくめに見えますが、弱点もあります。第一に、数が読めないこと。来月2人ほしい、と思っても紹介は注文どおりには出ません。第二に、紹介元の隊員が辞めるとき、紹介で入った人も一緒に辞める連鎖が起きることがあります。ですから紹介制度は、求人広告やハローワークをやめて置き換えるものではなく、併用して採用の柱を増やすもの、と考えてください。
紹介が生まれる会社・生まれない会社
大前提から言うと、紹介制度はいまの隊員が会社に満足していないと機能しません。自分が不満な職場に、友達は誘えないからです。手当をいくら積んでも、ここは変わりません。友達に嫌な職場を売りつけてまで手当がほしい人は、まずいないのです。
では、満足の中身とは何でしょうか。難しい話ではありません。給与の支払いが遅れない。現場の割り当てが公平で、特定の人だけがきつい現場に回されない。困ったときに話を聞いてくれる人が会社にいる。この3つの土台があって初めて、「うちで働かない?」の一言が隊員の口から出ます。
逆に言えば、紹介の少なさは、社内の満足度を映す鏡です。制度を作っても半年間紹介がゼロなら、手当の金額を疑う前に、職場そのものを疑ってみてください。隊員に「知り合いを誘うとしたら、ためらう理由はある?」と率直に聞いてみるのも手です。返ってきた答えが、そのまま会社の改善リストになります。
この土台づくりは、遠回りに見えて、実は採用全体の近道です。満足度の高い職場は、紹介が増えるだけでなく、いまいる人も辞めません。採用と定着は、同じ土台の上に乗っているのです。
紹介手当のルールは「シンプル・二段階・公開」
「紹介した人が入社したら○円」の一文で説明できる形に
入社時と、3か月続いたとき。定着まで見届ける設計に
朝礼・給与明細・掲示で繰り返し告知。忘れられたら無いのと同じ
原則①:一文で説明できるほどシンプルに
「紹介した人が入社したら○円」。この一文で説明が終わる形にしてください。「正社員の紹介なら○円、アルバイトなら○円、ただし週3日以上勤務の場合に限り、資格保有者は加算で……」と条件を細かくするほど、隊員は覚えられなくなり、覚えられない制度は使われなくなります。対象も広く取りましょう。紹介する側も、される側も、アルバイトを含めた全隊員が対象。回数の上限もなし。「誰でも、何人でも」が基本です。
原則②:入社時と3か月後の二段階で払う
手当は一括ではなく、入社時と、3か月続いた時点の二段階に分けます。理由は2つあります。1つは、手当目当てのゆるい紹介を防ぐため。すぐ辞めそうな人を連れてきても満額はもらえない、と分かっていれば、紹介の質が自然と上がります。もう1つは、紹介した先輩が入社後の面倒を見る動機になるため。「あと1か月続けば俺にも手当が出るから、頑張れよ」という声かけが、新人の定着を後押しします。二段階払いは、制度の中に定着支援を組み込む仕掛けなのです。
原則③:全員に、繰り返し公開する
制度は作った瞬間がいちばん知られていて、あとは忘れられていく一方です。朝礼で月に一度は口頭で伝える。給与明細に一行入れる。待機所に貼り紙をする。実際に手当が支払われたら「今月、○○さんに紹介手当が出ました」と(本人の了解を取って)共有する。この「実際に払われた実績」の告知がいちばん効きます。制度が本当に動いていると分かった瞬間、様子見をしていた隊員が動き出すからです。
支払い方の注意点
紹介手当は、就業規則や賃金規程に定めたうえで、給与(賃金)として支払うのが原則とされています。社員が業として職業紹介を行う形にならないよう、制度の位置づけは整えておく必要があります。細かい扱いは会社の状況によりますので、導入時に社会保険労務士など専門家に一度確認しておくと安心です。
金額はいくらにする?——採用単価から逆算する
「相場はいくらですか」とよく聞かれますが、相場から決めるのはおすすめしません。決め方の軸は、自社がいま1人採るのにいくら払っているかです。求人広告で1人採用するのにかかっている金額(計算のやり方は採用単価の計算方法にまとめています)より紹介手当が安ければ、制度として十分成立します。
例えば、広告費で1人採るのに10万円かかっている会社が、紹介手当を入社時1万円+3か月後2万円の合計3万円に設定したとします。紹介で1人採れるたびに、会社は差し引き7万円得をする計算です。しかも紹介のほうが定着しやすいのですから、実際の得はもっと大きくなります。手当をケチる理由は、どこにもありません。
ちなみに私たちの親会社の警備会社では、採用の仕組み全体を見直して、採用単価を約30万円から約3〜4万円まで下げられました。紹介は、広告に頼らずこの水準に近づける数少ない経路です。
逆に、高くしすぎるのも考えものです。手当が大きすぎると「とにかく誰でも連れてくる」動きを招きます。採用単価より安く、かつ隊員が「動く気になる」金額。この間で、二段階の配分(入社時は控えめに、3か月後を厚めに)を調整するのが現実的です。
「誘い文句」まで会社が用意する
土台とルールが整っても紹介が出ないとき、原因は隊員のやる気ではなく、誘い方が分からないことにある場合が多いです。「友達を誘ってね」と言われても、何と声をかけていいか分からない。仕事の条件を聞かれても正確に答えられない。この「誘う側の手間と不安」を、会社が先回りして消してあげましょう。
道具①:一言メモ
「いま、こんな人を探しています」を名刺サイズの紙に印刷して配ります。例えば「60代歓迎・週2日から・座り仕事の現場あり」のように、誘われた側が自分ごとにできる言葉を選びます。隊員は、これを渡すだけで誘いが成立します。
道具②:そのまま転送できる求人ページ
口頭の誘いのあとに「詳しくはここ見て」と送れるページがあると、話が一気に前に進みます。スマホで読めて、仕事内容・給与・会社の雰囲気が分かるページ(作り方は採用ページに最低限必要なものを参照)を用意し、LINEで送れるようにしておきます。中高年の隊員同士でも、連絡はLINEが主流です。応募の受け口もLINEで受けられる形にしておくと、誘われた側の心理的な垣根がぐっと下がります。
道具③:声かけの例文
誘い文句の見本まで配ってしまいましょう。例えば「うち、今人探してるんだけど、週2日からでいいらしいよ。話だけでも聞いてみる?」のような、売り込みにならない軽い一言です。「入社してくれ」ではなく「話だけでも」と誘うのがコツです。誘うほうも気が楽ですし、誘われるほうも断りやすい分、かえって返事がもらえます。
そして、紹介が実際に起きたら、会社の対応は最速で。せっかくの紹介も、連絡が遅ければ気持ちが冷めます。紹介してくれた隊員の顔をつぶさないためにも、その日のうちに連絡しましょう。
よくある質問
Q. 紹介手当の相場はいくらですか?
一律の相場で決めるのではなく、自社の採用単価から逆算することをおすすめします。広告で1人採るよりも安ければ、会社にとって損のない制度になります。そのうえで、隊員が「動く気になる」金額かどうかを、実際の反応を見ながら調整してください。
Q. アルバイトや短時間勤務の隊員も対象にすべきですか?
対象は広くするのが基本です。紹介する側もされる側も、雇用形態を問わず全員を対象にしましょう。条件で線を引くほど制度は複雑になり、複雑になった制度は使われなくなります。
Q. 紹介で入った人がすぐ辞めたら、手当はどうなりますか?
二段階払いにしておけば、自然に解決します。入社時の分は支払い、3か月後の分は在籍していれば支払う。それだけです。一度払った入社時の手当を、退職を理由に返金させるような運用は、不信感のもとになるので避けるのが無難です。
Q. 家族や同居人の紹介でも対象になりますか?
対象にして問題ありません。警備業では夫婦や親子で働く例も珍しくなく、身近な人ほど仕事の実態を分かったうえで来てくれます。ただし、同じ現場に配置するかどうかは、勤務管理のしやすさを考えて会社ごとに判断するとよいでしょう。
Q. 制度を作ったのに紹介がまったく出ません。何から見直せばいいですか?
点検の順番は、告知→道具→土台です。まず、隊員が制度を覚えているかを朝礼で確かめる(意外なほど忘れられています)。次に、一言メモや転送できる求人ページなど、誘う道具が渡っているか。それでも出ないなら、最後は土台、つまり職場への満足度を疑います。隊員に率直に聞いてみてください。
Q. 手当は現金で手渡ししてもいいですか?
その場の現金手渡しではなく、就業規則や賃金規程に定めたうえで給与と一緒に支払うのが原則とされています。記録が残る形にしておくほうが、税や労務の面でも後々困りません。導入時に社会保険労務士など専門家に確認しておくと確実です。
まとめ
紹介制度は、①社内の満足という土台 ②シンプルで公開されたルール ③誘いやすい道具立て、の3点セットです。手当の金額は主役ではありません。土台がある会社では小さな手当でも紹介が回り、土台のない会社では大きな手当でも回らない。順番を間違えないことが、いちばんの近道です。
土台の話は、採用した警備員が1か月で辞める会社の共通点ともつながっています。紹介が出ない理由と、人が辞める理由は、たいてい同じところにあるからです。
次の一歩は簡単です。今日の朝礼で「紹介制度を作ります。詳しいルールは来週発表します」と予告し、A4一枚に「誰が・誰を・いくらで・いつ」の4点だけ書いたルール表を作ってください。完璧な制度を半年かけて作るより、シンプルな制度を今週動かすほうが、最初の1人はずっと早く決まります。
