応募の電話が鳴ったとき、事務所に誰もいない。夜に折り返したら、もう出ない——。管制も社長も現場に出る警備会社では、ごく普通の光景です。悪気があって出ないわけではありません。現場を最優先にするのは、警備の仕事として正しい判断です。
ただ、この「出られなかった1本」の裏で何が起きているかを知ると、放ってはおけなくなります。この記事では、応募電話に出られないことで警備会社がどれだけ損をしているのか、そして電話番を増やさずにその損を止める方法を、順を追って説明します。
- 応募者は平均8.8社に応募しており、折り返しが遅れるほど先に動いた他社に取られる
- 出られなかった電話は「応募ゼロ」と同じではなく、お金を払って集めた人を手放す損失
- 電話番を増やさなくても、SMS・折り返しの決まりごと・応募フォームの3つの受け皿で損は減らせる
- 大事なのは担当者の善意に頼らず、「誰が・いつ・何をするか」を決めて記録すること
なぜ警備会社は応募電話に出られないのか
まず、責める話ではないことをはっきりさせておきます。警備会社の事務所は、日中ほとんど戦場です。管制は隊員の欠勤連絡と現場からの問い合わせに追われ、社長は契約先への挨拶や現場の巡回で外に出ている。事務の人がいても1人か2人で、電話は次々かかってきます。
そこに応募の電話が混ざります。応募者の多くは携帯からかけてくるので、画面に出るのは知らない番号だけ。営業の売り込み電話と見分けがつきません。忙しい時間帯に知らない番号から着信があれば、後回しになるのは自然なことです。
一方の応募者側も、実は緊張しています。求人を見て、迷って、勇気を出して電話をかけている人が少なくありません。その電話が誰にも取られずに切れると、「忙しいのかな」よりも「歓迎されていないのかな」と受け取られがちです。かけ直してくれる人ばかりではない、と考えておいたほうが安全です。
そして夜、落ち着いてから折り返すと、今度は相手が出ない。応募者も仕事中だったり、家族との時間だったりします。翌日かけ直しても、また出ない。こうしてお互いにすれ違いが続き、気づけば1週間たっている。これは担当者の怠慢ではなく、電話という道具と警備業の働き方がかみ合っていない、仕組みの問題です。仕組みの問題は、根性や注意ではなく、仕組みで解決できます。
出られなかった1本の裏で、応募者は動き続けている
電話に出られなかったとき、応募者が「つながるまで待っていてくれる」と考えるのは危険です。マイナビの転職動向調査2024年版によると、転職した人は平均8.8社に応募し、面接を受けたのは3.6社です。つまり応募者は、あなたの会社だけを見ているわけではありません。同時に何社にも声をかけ、そのうち面接まで進むのは半分以下なのです。
どの会社が面接まで進むのか。決め手のひとつは、単純に「先に連絡がついた順」です。応募者の予定は、先に日程を決めた会社から埋まっていきます。電話がつながらなかった会社は「連絡がつかない会社」として後回しになり、あなたが折り返した頃には、他社の面接日程が決まっている。応募者に悪気はありません。仕事を探している人にとって、早く返事をくれる会社のほうがありがたいだけです。
しかも、面接の約束が取れたあとも競争は続きます。私たちの親会社の警備会社では、面接約束の約4割が当日に来ない時期がありました。約束から面接当日までの間にも、応募者は他社とやり取りを続けているからです。だからこそ最初の接触は速いほどよく、親会社では最終的に、応募から13分で最初の電話をかける体制を作りました。速さは、応募者への誠意がいちばん伝わりやすい形なのです。
電話に出られない=広告費がその場で消えている
求人広告を出している会社なら、応募1件にはお金がかかっています。ここを金額で考えると、電話の1本の重みが変わります。
例えば、広告費10万円で応募が5件あったとします。この場合、応募1件を集めるのにかかったお金は2万円です。電話に出られず、折り返しもつながらないまま1人を取り逃がせば、2万円がその場で消えた計算になります。月に3本取り逃がせば6万円。1年続けば72万円です。応募がなくて悩むより、ある意味で悔しい損失です。お金を払って集めた人を、対応の遅れで手放しているのですから。
しかも消えるのは広告費だけではありません。取り逃がした1人が採用できていたら埋まっていたはずの現場を、既存の隊員の残業や、社長みずからの現場入りで埋めることになります。電話1本の取りこぼしは、帳簿に載らないところでも会社の体力を削っているのです。
電話に出られないことは、応募がないことより悔しい損失です。広告の内容を磨く前に、まず「来た応募を取りこぼさない」ことのほうが先です。穴の空いたバケツに水を注ぎ続けても、たまりません。応募1件あたりにかかっているお金の計算方法は、採用単価の計算と下げ方で詳しく説明しています。親会社で採用単価が約30万円から約3〜4万円まで下がった出発点も、実はこの「取りこぼしを止める」ことでした。
「電話番を増やす」以外の解決策
「じゃあ事務員を雇うか」と考える必要はありません。人を増やさなくても、できることはあります。ポイントは、出られない前提で受け皿を組んでおくことです。
出られなかった番号に「応募ありがとうございます。○時に折り返します」と文字で返す
「昼休憩と17時に必ず折り返す」を決まりごとにする
求人に「電話がつながらないときはこちら」の受け皿を用意する
① 出られなかったら、すぐSMSで一言返す
SMS(ショートメッセージ)は、電話番号あてに短い文章を送れる仕組みです。特別な道具はいらず、いつもの携帯から送れます。「応募ありがとうございます。○○警備の△△です。17時ごろこの番号からお電話します」——この一言が届くだけで、応募者は「無視されていない」とわかり、待ってくれる可能性がぐっと上がります。送るのは電話を取れなかった直後、遅くともその日のうちが目安です。文面は毎回考えず、ひな形を1つ作って使い回してください。
② 折り返しの時間を決まりごとにする
「手が空いたら折り返す」は、忙しい警備会社では「折り返さない」と同じです。昼休憩と17時、のように1日2回の折り返し時間を決め、誰がかけるかも決めておきます。着信履歴を見て順にかけるだけの単純な決まりですが、これだけで取りこぼしは目に見えて減ります。
③ 電話以外の入り口を用意する
求人票や採用ページに「お電話がつながらないときは、こちらからどうぞ」と応募フォームへの案内を載せておきます。名前と電話番号と希望の連絡時間帯だけの簡単なもので十分です。電話をかけるのが苦手な若い世代の応募も、この入り口から拾えるようになります。
あわせて、事務所の留守番電話の案内文も見直しておきましょう。「ただいま電話に出られません」だけでは、応募者は切って次の会社に進みます。「採用へのご応募の方は、お名前とご連絡先をお残しください。本日中に折り返します」と一言入れるだけで、留守番電話そのものが受け皿になります。
大事なのは、担当者の善意に頼らず決まりごとにすることです。親会社の「応募から13分で初回電話」も、中身は特別な道具ではなく、「誰が・いつ・何をするか」を決めて記録することでした。
折り返し電話を「つながる電話」にするコツ
受け皿を作ったら、次は折り返しの中身です。同じ1本の電話でも、かけ方でつながる率は変わります。
かける時間帯は、相手の生活に合わせる
在職中の応募者なら、日中の勤務時間帯は出られません。昼休みの時間帯か、夕方以降が狙い目です。2回かけてつながらなければ、それ以上追いかけず、SMSに切り替えましょう。着信履歴が何件も並ぶと、応募者はかえって身構えてしまいます。
かける前に、SMSで予告する
応募者側から見ても、知らない番号からの着信は出づらいものです。かける前に「○○警備の△△です。この番号から17時ごろお電話します」と送っておくと、相手は安心して出られます。順番をひとつ変えるだけで、つながり方が変わります。
話す内容を先に決めておく
電話がつながったら、お礼、面接日程の相談、場所と持ち物の案内、の順で話します。最後に「前日に確認のご連絡をしますね」と一言添えておくと、当日の不参加も減らせます。面接のドタキャン対策は面接ドタキャンを減らす方法にまとめています。
記録を残す
いつ・誰が・何を話したかを、ノートでもエクセルでもよいので1か所に残します。記録がないと「かけたはず」「聞いていない」のすれ違いが起き、応募者を待たせる原因になります。書く項目は、応募日、名前、電話番号、かけた日時、話した結果、次にやること。この6つだけで十分です。記録が1か所にそろうと、誰が見ても「いま誰を待たせているか」が一目でわかるようになります。
よくある質問
Q. 応募電話を逃したら、どれくらい以内に折り返せばよいですか?
早いほどよい、が答えです。応募者は平均8.8社に応募しているので、待たせた時間の分だけ他社に先を越されます。まずは「当日中に必ず返す」を決まりにして、慣れてきたら数時間以内を目指してください。親会社は13分まで縮めましたが、最初から真似する必要はありません。
Q. 携帯の操作が苦手です。SMSは難しくありませんか?
電話番号を選んで、文章を打って送るだけです。文面のひな形を1つ、メモ帳などに保存しておき、毎回貼り付けて名前と時間だけ変えれば1分もかかりません。やり取りが続くようなら、LINEに切り替えるとさらに楽になります。詳しくは採用でLINEを使う方法をどうぞ。
Q. 夜間や休日にかかってきた応募電話はどうすればよいですか?
無理に出る必要はありません。留守番電話の案内を「応募の方は、お名前とご連絡先を残してください。翌営業日に必ず折り返します」に変えておき、宣言どおり折り返すのが現実的です。あわせて求人側に応募フォームの入り口を作っておけば、夜中に求人を見た人も取りこぼしません。
Q. 折り返しても、何度かけても出てもらえません。
相手も仕事中の可能性が高いので、時間帯を変えて2回まで。それでもつながらなければ、SMSで「面接の候補日をお送りします。ご都合のよい日を返信ください」と文字で日程を送る方法があります。電話にこだわらず、文字で決めてしまってよいのです。
Q. 応募が少ないので、まず広告を増やすべきではありませんか?
順番は逆をおすすめします。受け皿に穴が空いたまま広告費を増やしても、取りこぼしが増えるだけです。まず今の応募を全部つかまえる体制を作り、それから応募を増やす施策に進むほうが、同じお金で採用できる人数が変わります。
まとめ
応募の電話は、鳴った瞬間がいちばん価値が高く、時間とともに冷めていきます。応募者は平均8.8社を並行して受けており、連絡がつかない会社は静かに候補から外れていく。出られなかった1本は、広告費を払って集めた人をその場で手放す損失です。
だからといって、電話番を増やす必要はありません。出られないことを責めるのではなく、出られない前提で受け皿を作る。①出られなかったらすぐSMS、②折り返しの時間と担当を決める、③電話以外の入り口を用意する。この3つは、お金もほとんどかからず、今日の夕方に決めて明日から始められます。始めたら、取り逃がした件数と折り返しでつながった件数を月に一度ふり返ってみてください。数字が減っていくのが見えると、決まりごとは自然と続きます。応募後の追いかけ方の全体像は応募が来ても面接につながらない警備会社の共通点をどうぞ。
